山本直人『亀井勝一郎』(ミネルヴァ書房2023)を読む

山本直人『亀井勝一郎』(ミネルヴァ書房2023)読了。『大和古寺風物詩』(新潮文庫)などを除き、あまり読まれない批評家となっている。亀井勝一郎Who?という人のために本書の出版社によるコピーをアレンジして紹介する。 亀井勝一郎(1907−66) 北海道函館出…

大井赤亥『政治と政治学のあいだ 政治学者、衆議院選挙をかく闘えり』(青土社)について

大井赤亥『政治と政治学のあいだ 政治学者、衆議院選挙をかく闘えり』(青土社)読了。政治の「学」としても、政治の「実践」としても、とてもおもしろかった。全3部構成の「第I部 1993年体制をめぐって」は大井さんの『武器としての政治思想』『現代日本政治…

岡崎文吉の墓と生前墓

【岡崎文吉の墓と生前墓】 「石狩川治水の祖」と言われ晩年は茅ヶ崎で過ごした岡崎文吉(1872-1945)が葬られたのは杉並区永福駅近くの法華宗の理性寺(りしょうじ)である。今日、茅ヶ崎岡崎文吉研究会の有志とここを訪ね、雨の中、香華を手向けた。捧げられた…

有島武郎と足助素一:札幌の貸本屋独立社とその系譜

【有島武郎と足助素一:札幌の貸本屋独立社とその系譜】 藤島隆『貸本屋独立社とその系譜』(北方新書、北海道出版企画センター、2010)。 本書は、第一部「貸本屋独立社とその系譜」と第二部「北海道の貸本屋と図書館」との二部構成となっている。このような…

タコ部屋の飯を食った作家佐左木俊郎(つづき)

【タコ部屋の飯を食った作家佐左木俊郎(つづき)】 文芸誌『新潮』の編集に携わった楢崎勤(1901−78)に『作家の舞台裏:一編集者のみた昭和文壇史』(読売新聞社、1970)がある。そこに、小林多喜二の作品『蟹工船』『不在地主』についての佐左木俊郎の評価が…

タコ部屋の飯を食った作家佐左木俊郎

【タコ部屋の飯を食った作家佐左木俊郎】 「見そこなうな。おれは、北海道でたこ部屋の飯をくった男だぞ」 ーーこう凄んだのは、わたしの遠縁の新潮社編集者兼作家の佐左木俊郎(1900-33)である。同じく新潮社に勤めていた和田芳恵の『ひとつの文壇史』講談社…

更科源蔵『凍原の歌』の〈戦争詩〉をめぐって

沼田流人『監獄部屋』の1928年発禁〜29年改訂版発行について、当時の内務省検閲官を務めた詩人の佐伯郁郎についてSNSで発信したところ、北海道立文学館の理事・青柳文吉さんから論考「更科源蔵『凍原の歌』の〈戦争詩〉をめぐって」を送っていただいた。これ…

沼田流人『監獄部屋』1928年の発禁をめぐって

【沼田流人『監獄部屋』1928年の発禁をめぐって】 沼田流人の『監獄部屋』(金星堂、1928年5月)は発禁となった。こんにち、その発禁となった『監獄部屋』の内務省検閲本が、国立国会図書館デジタルライブラリーにより無料で、またAmazonKindle版により有料で…

山本潔先生追悼

山本潔先生追悼 山本潔先生(東京大学社会科学研究所、名誉教授、労働問題研究)が、2020年12月末に亡くなられていたことを、遅ればせながら知った。『日本における新左翼の労働運動』の著者の一人。わたしが東大出版会において編集部に異動して最初に担当した…

沼田流人「地獄」についての武者小路実篤の雑感

沼田流人「地獄」についての武者小路実篤の雑感 武者小路実篤『文藝雑感』(春秋社、1927年6月5日印刷)に、沼田流人「地獄」について触れた「文藝雑感」という文章がある。北海道は倶知安のタコ部屋を描いた「地獄」は『改造』1926年9月号に掲載されている…

梅田滋『存在の淋しさ 有島武郎読書ノート』に寄せて

梅田滋『存在の淋しさ 有島武郎読書ノート』に寄せて 竹中英俊(北海道大学出版会相談役) 有島武郎は「北海道文学の父」と言われる。確かに「カインの末裔」や「生まれ出る悩み」「星座」などは北海道に深く根差した作品であり、その呼称は正しい。しかし、一…

倶知安の作家沼田流人のこと

札幌から帰った12日から1週間余、倶知安の作家である沼田流人(1898-1964)に没頭していました。北海道のタコ部屋(監獄部屋)を描いた岩藤雪夫「吹雪」について書いたSSN拙文について、岡和田晃氏から沼田流人『監獄部屋』があることを教えられ、その1週間も…

戸塚秀夫「日本帝国主義の崩壊と「移入朝鮮人」労働者──石炭産業における事例研究」について

最高気温32度にもなった今日、蔵書整理のために、辻堂の冷房なしの作業場に詰めていた。暑い。整理中、ふと隅谷三喜男編著『日本労使関係史論』(東京大学出版会1977)が目にとまった。かつて夢中になって読んだ研究書である。 目次は次の通り。 第1章 工場法…

杉森久英『滝田樗陰』

杉森久英『滝田樗陰』(中公新書1966)読了。本名哲太郎の滝田樗陰は秋田市1882年の生れ。樗陰の号は高山樗牛に因むものという。 東京帝国大学在学中から雑誌「中央公論」の編集にたずさわり、同大中退後、『中央公論』の編集者として、文芸欄の充実に力を尽く…

藪田貫『大塩平八郎の乱』(中公新書2022)

藪田貫『大塩平八郎の乱』(中公新書2022)読了。大塩の乱については、限られた史料ながら手堅い推論としっかりした文体でもって人物と事件を描き出した、幸田成友『大塩平八郎』(中公文庫;1910年)が古典である。森鷗外の歴史小説は幸田に依拠したものである。…

田中綾『非国民文学論』の明石海人論

田中綾『非国民文学論』第1部「非国民文学論」の第2章「〈幻視〉という生ーー明石海人」は、ハンセン病文学者・明石海人というこれまでのイメージを超える圧巻だった。もっと言えば「ハンセン病文学者・明石海人」という観念を超出する「文学者・明石海人」…

河谷史夫『記者風伝』

河谷史夫『記者風伝』(朝日新聞出版2009)。新聞連載時に読み、本も揃えたが積読のままだった。 本書は「羽織ごろ」と題する次の文章で始まる。ーー《新聞記者は、むかし「羽織ごろ」と呼ばれたそうである。その言葉を子供のときに聞いたと、大正生まれのコラ…