沼田流人「地獄」についての武者小路実篤の雑感

沼田流人「地獄」についての武者小路実篤の雑感

武者小路実篤『文藝雑感』(春秋社、1927年6月5日印刷)に、沼田流人「地獄」について触れた「文藝雑感」という文章がある。北海道は倶知安のタコ部屋を描いた「地獄」は『改造』1926年9月号に掲載されている。武者小路のこのの文章の末尾には(28.10.12)と記載されていて、これは正しくは1926.10.12と推測される。つまり、「地獄」発表すぐに読み始めたものと思われる。
以下がその雑感の一部。
《沼田流人「地獄」もまだ全部よまない。文章がもう少し簡単明瞭で、大げさな形容をへらしてくれたならばすごい感じがうき出すと思ふ。実際こんな世界が日本にあることは昔からわかつてゐるのになくすことのできないのは、日本に何のために警察があるのかわからない。社会主義者の宣伝よりは、かう云ふ事実の火の如き、或は血みどろの宣伝の方が遥かに恐ろしいことは知つてゐるはずだ。人命の詐欺を黙認することはよくないことである。》28-29ページ