山本潔先生追悼

山本潔先生追悼

 山本潔先生(東京大学社会科学研究所、名誉教授、労働問題研究)が、2020年12月末に亡くなられていたことを、遅ればせながら知った。『日本における新左翼の労働運動』の著者の一人。わたしが東大出版会において編集部に異動して最初に担当したのが先生の『自動車産業の労資関係』(1981)だった。(原稿のままに作っただけです。)
 その後も、単著として『日本の賃金・労働時間』(1982)、『日本における職場の技術・労働史』(1994)、『日本の労働調査』(2004)、編著『日本の労働争議』(1991)を担当したし、また論文集『労資関係・生産構造』(ノンブル社)などのお手伝いをした。(いずれも、類例のない、新しい領域を切り拓く研究です。)
 読売争議、東芝葬儀などの戦後労働争議史の著作を持つ先生は、資本主義社会のもとにおける労資関係を、あたかもレントゲン写真で透視するような調査研究をするとともに、調査方法論についても極めて自覚的だったと思う。(それが、逆に、師である氏原正治郎先生からの批判を招いたのは悲劇的でした。)
 活版時代の印刷所の労働調査もされた先生は、原稿の組み方、特に複雑な表の組み方については、現場に迷惑をかけないような配慮をすると共に、印刷所の(場合によっては出版社の)手抜きの杜撰な仕事に対しては(当然ながら)厳しい姿勢を示した。わたしが、本作りにおける印刷所との関係のあり方について最も学んだのは、山本先生からであった。
 おそらく霊を信じない唯物論者であったと思うので、「霊前」という言葉は使わないが、出身地の旭川をいつも懐かしく語られていらっしゃった山本潔先生に対して、心よりの哀悼の意を表します。(あれだけ、親密に付き合ったのに、わたしは先生の写真一枚も持っていないなあ。)