『岡義達著作集』(吉田書店)刊行を寿ぐ

『岡義達著作集』(吉田書店)を恵贈される。金字塔と言うべき出版。編集にあたられた永森誠一先生をはじめとする方々、版元の吉田書店に心からの敬意を表する。

本書を手にして深い感慨を抱いている。かつて、岡先生の書籍出版を企画しながら、わたしは一つも実現できなかったからである。もう三十数年前のことである。先生とお会いするのは、いつも神田須田町の喫茶店「きくむら」。午後3時から5時まで。昼ながら缶ビールをゆっくり飲みながら、もっぱら先生のお話しをお聞きする役割に徹した。

お会いしたのは、先生が出版を希望された『政治と演技』の打ち合わせをするためである。そして、『政治と演技』の次に先生が出したいのは、『政治と事件(イベント)』、『政治と情報(インテリジェンス)』ということも話され、これらのおよその内容についてもお聞きした。

わたしの方から先生にお願いしたのは、当時品切れであった岩波新書の『政治』の復刊。先生は改訂版として出したいというご意向であった。

他方、並行して、先生の既刊の論文を集めて本として出せないかと考えて、先生から教えを受けた方に著作目録をつくってもらったが、一冊の書籍として刊行するには分量が足りないことが分かり、これは断念した。

『政治と演技』の原稿は完成されることなく1996年6月2日に逝去された。先生からは『政治と演技』ほかについて講義ノートがあるとお聞きしていたので、ご逝去ののち、関係者にその講義ノートの探索をお願いしたが、残念ながら、断片的なものしか残っておらず、これも断念した。

その後、時を経て、2022年、前田亮介編『戦後日本の学知と想像力』(吉田書店)が刊行され、それに収録された澤井勇海「岡義達 行動論・象徴論から演技論へ」を読み、わたしが担当して未刊だった岡『政治と演技』について、それがなぜ未刊に終わったのか、岡政治学を学問内在的に解明していることに感心した。そしてまた、編集者が著者と出版とに関わるとは何かを考えさせられた。

今回、岩波新書『政治』をも収録された『岡義達著作集』に接して、再びまた、編集者が著者と出版とに関わるとは何か、について考えさせられた。

本書の編者を務めた永森誠一先生の「編集後記」を読んで、岡先生の執筆したものは本書『岡義達著作集』以外にもあり、続編の刊行を企画していることを知り、驚いた。そんなにも書き残したのがあったのか! 

とまれ、本書の上梓を寿ぐとともに、まずは本書を精読することに努めたい。